ベルギーと私 ② えっ? 仕事はすべてフランス語?!

ベルギーのブリュッセルに着任して、まずぶち当たったのは言葉の壁でした。フランス語はゼロ、英語はそれまでの唯一の海外経験が新婚旅行で行ったハワイ、それもまるで通じなかったというみごとな実績・・・ 

↑ 特訓で毎日使ったベルリッツのテキスト

聞いてないよ!

駐在が決まって約2ヶ月でベルギーの労働許可が取れ、4月半ばに単身で出発した。当時は現地に少し慣れて落ち着いてから家族呼び寄せという半年ルールがあったことによる。仕事としては不動産開発事業で土地を購入して建設したビルはほぼ完成しているが半分もテナントが埋まっていないためそのテナント誘致活動、及びビルの運営というもので平たく言うと賃貸ビルの工事・運営・管理ということになる。ビルの中には日本レストラン、日系企業もいくつか入っていたがその頃から、ベルギー、シンガポール、アメリカ等国際色が豊かなテナントが増えてきていた。勤務する不動産事業会社は、私の上司の日本人以外に数人のベルギー人スタッフがいたが、事務所には建設会社、設計事務所、不動産業者、技術顧問、設備エンジニア、弁護士、会計士と様々な人々が入れ替わり立ち替わり現れる。

そんななかで最初の衝撃:仕事は全てフランス語!!!東京ではそうは聞いていなかったしそもそも出発までの2ヶ月の間は英語の特訓を受けさせられたのだから。あとから考えると「英語すらできないようではなんの役にも立たず足手まといなだけ」と心配されていたのかも知れない。ベルギーから東京本社に送られてきていた書類の殆どはベルギーで秘書が英語に訳したものだったので、現地がここまで仏語100%の世界というのは想像を絶していた。

結局のところ、不動産という地場密着の仕事であること、テナントとの賃貸契約もフランス語、建設関係者も出入りするビルの管理関係者も英語は話さない、などから現地に来てみると「想像は絶していても」当たり前ということがよくわかった・・・因みに私の上司は外語大仏語科優等生にして商社入社後パリ研修生としてさらに研鑽を重ねベルギー人よりフランス語が達者(ベルギーのフランス語は方言、訛が多いためよくフランス人にからかわれる)と言われていた。一方、私はとにかく何ひとつ分らないままに時間だけが過ぎてゆく。なんでこんな語学音痴が指名されたのだろう、これでは仕事云々以前の問題・・・着任3日目にして絶望して逃げ出したくなった。

ベルリッツのフランス先生と英語禁止令

3日目に逃げ出しそこねると4日目から強制的に出社前、毎朝8時から90分の仏語の個人レッスンを事務所近くのベルリッツで受けさせられることになった。ベルリッツの授業は教材が確立されていて、仏語のABCもわからない私に徹頭徹尾、仏語で教え、仏語しか出てこない。絵と文章を使って「これは本です」(C’est un livre)ベースのことを何遍も繰り返す事から始まった。

先生は20代半ばくらいのベルギー人女性でフランスという名前だった。ベルギー人なのにフランスかなどと思いながらもクリクリとしたいたずらっぽい眼が印象的な明るく活発な彼女の授業は絶望感の中に僅かな希望を与えてくれた。90分の授業でヘトヘトになって事務所に行くと、その日二度目のボンジュールに続いて仏語の洪水に呑まれボンソワールで終る毎日を繰り返し、そしてボンウィークエンドで終る一週間を何回か繰り返し、やっと事務所の雰囲気に少しは慣れてきた着任約1ヶ月経過後、私の日本人上司は現地従業員全員に対して、あろうことか「彼に英語をしゃべってはならない」と命令を下した。ビルの残工事がある一方、開業に伴うテナント誘致活動、管理、会社の運営等、目の前でいろいろなことが同時多発的に進んでいる中で、少し何かを頼もうとすると、おぼつかない仏語(学習1ヶ月ですよ!)では伝わらないため、へたな英語に頼ろうとしているのを見られていたのだろう。かくして退路は断たれた・・・

↓ 初めの一歩

↓ フランス(先生)が授業中に書いてくれたメモ

事務所の同年代のベルギー人女性二人(組織的には部下ということになる)が、「あなたの状況は余りに悲惨すぎる」と小声(英語)で言って、そんな時はこう言うと交互にフランス語でメモを書いて渡してくれた。周囲から見ても相当惨めだったようだ。ところが、さすがは若さ、そんなこんなで着任して3ヶ月くらい経つと、まあ1年もすればなんとかなるかもという希望が湧いてきた。世に言う「三日、三月、三年」という言葉は、新しい仕事を始めて辞めたくなる節目として使われることが多いようだが私の場合はそれに該当するのはどうやら最初の三日目のみだったようだ。

因みに、当時助けてくれた女性の一人、リンダは本人が常にフェースブックを更新しているのに加え、メール、WhatsAppでもよくやりとりしているので身近な感じはしているが咋秋ベルギーを訪ねご主人(昔、結婚式にも出た)と共に会って旧交を温めた。ベルギー式 Trois bises - 頬に、右・左・右と3回(フランスでは2回が主流)キスする ー も随分久しぶり。やはり実物はいい・・・ってちょっと変な表現か、ま、いずれにせよ時間は掛かったが対等に話せるくらいには辿り着いた。 

 

 

 

 

コメントする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

アップロードファイルの最大サイズ: 10 MB。 画像 をアップロードできます。 ここにファイルをドロップ