森林公園散歩 寄生蜂の不思議 番外

秋も深まった東高根森林公園、気温も上がらず蝶たちは姿を現わしませんが妙なハチが・・・ mats

エゾオナガバチという寄生蜂の仲間、すなわち他の昆虫の体内に卵を産んで、生まれてくる幼虫はその宿主の体内に寄生して成長するというなんとも数奇な運命を背負っています。イロハモミジの幹に産卵管を差し込んで産卵中です。腹部の左右に丸くなっているのは産卵管を保護する鞘(サヤ)で、産卵するときにはこのように左右にはずれて丸くなります。

「ウン?でもこれって産卵管を木の幹(イロハモミジ)に差し込んでるだけでいったいどこに卵を産んでるんだい?」・・と突っ込まれるかも知れませんが、そこには信じられないような答えがあります。すなわち、この寄生蜂はキバチというハチを宿主として寄生し、その幼虫の体内に卵を産み付けます。幹の内部に潜む宿主の幼虫の居場所を知るために木の表面をこれまた長い触角でトントンと「打診」することにより位置を探り当てて、そこにめがけて産卵管を挿入するのです。私が見つけたときは写真の状態だったので打診しているところは観察できませんでしたがその知恵と本能は俄(にわか)には信じられません。

それにしても、寄生蜂の割には随分体が大きいですね(産卵管と触角を除いても4cm程度はある)。また、ここまで産卵管が長いのにはそれなりの理由はあるのでしょうが写真を見ていると長すぎてかえって産みにくそうにも思え、次から次へと疑問が湧いてくる不思議なハチです。

 ↓ 尾が重く長いのでいかにも不器用な飛びかた

 ↓ イロハモミジに写った影が美しい(産卵後に飛びたってまた、元の木に戻ってきた)

寄生蜂に関する話題をもう一つ、随分前の記録です。山でタテハチョウの垂蛹を見つけて持って帰り、狭い書斎の机のコップに枝をさして木工ボンドで蛹をぶら下げて羽化を待ったことがあります。何日たってもそのままなので諦めていたら、ある日、蛹に大きな穴が開いていて中はカラッポで寄生されていたことが判明しました。ハチの幼虫は蝶の幼虫の体内で宿主を殺さない程度にひたすら養分を摂取して漸く蝶が蛹になった頃には中味を殆ど食べ尽くして今度は自分の繭を紡いだのでしょう。寄生蜂にとってはこれが当たり前の生活史だとしても蝶にとっては悲劇です。ところで蛹から出たはずのハチが書斎の中で逃亡したらしく見あたりませんでした。それから5日後、机の上をヘロヘロになって這っているハチ(寄生蜂の一種であるコマユバチの仲間と思われる)を見つけてついに犯人確保。そこで、ハチが蛹の中から出てきたシーンを再現するため、ハチを穴あき蛹にとまらせて撮ったのが下の写真です。従ってこれは人為的なもので生態写真ではありません。

蝶にとっては恐ろしい寄生蜂、しかし上には上がいます、その寄生蜂にまた、寄生する寄生蜂がいるというのですから・・・モンシロチョウの幼虫であるアオムシに寄生するアオムシコマユバチは、ヒメバチやヒメコバチといった寄生蜂に寄生されることが知られています。さらにそのヒメバチやヒメコバチの成虫たちも鳥に見つかったら一瞬にして呑み込まれてしまいます。食物連鎖のごく一部と言ってしまえばそれまでですがなんとも複雑・・・

 

 

 

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森林公園散歩 寄生蜂の不思議 番外” に対して2件のコメントがあります。

  1. Sophia より:

    衝撃的な写真と文章!
    自然の残酷さとそれを生物の食物連鎖の一部分として捉えたご報告、蝶博士の軽妙な語り口に救われた思いが致しました。
    「蝶図鑑」は子供のために作られたサイトだそうですが、私にとってはどの作品も大人が嵌ってしまう作品でもある、としか思えません。
    誰かさんではないですが、“いい仕事してますねえ”と言いたいです。
    有難うございました。

  2. mats より:

    いや~、それは褒めすぎですよ! でもありがとうございます。
    それにしてもこのような、本能とかDNAとかではとても説明しきれない摩訶不思議な行動や生態を前にすると賞賛・驚嘆と共に、徹底的に自らの無知・無力を感じます。稚拙な文章ですがそれらの極一部でもお伝えできればと思っています。

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